能登に来てほしくても、パンフレットは配った人にしか届かないし、地図に印を付けても、行ったことのない土地の名前は頭に残らない。でも、遊んだ場所のことは覚えている。そこでAIに「能登の12か所を巡るゲームを作って」と頼んだ。千里浜も、輪島の朝市も、見附島も、遊びながら通って、名前ごと覚えてもらう形になった。10日でできた。今は誰でも遊べる形にして、noto-quest.pages.dev に置いてある。うまくいかなかったところも全部書く。
もくじ(全 6 節・約 13 分)
01
困りごと
能登に来てほしい、と言う手立てがあまりない。
配って回れる数にはかぎりがあって、渡した先で土地の名前が残るとも限らない。震災のあとはなおさらで、「今どうなっているのか」が分からないと、行っていいのかどうかも判断しづらくなる。
ゲームで通った町の名前なら、大人になっても言える人が珍しくない。千里浜、気多大社、和倉温泉、輪島の朝市、白米千枚田、揚げ浜の塩田、見附島、禄剛崎の灯台、といった12か所を、遊びながら順番に巡ってもらえないか、と考えた。
作るのは私たちの本業ではない。ゲーム会社でもないし、絵も音楽も専門ではない。それでも、AIと一緒なら10日でできるのかどうかを確かめたかった。
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02
やったこと
12か所を選んで、今の姿を調べ直した(これは10日の外側)
先に断っておくと、場所選びと調べ物は、この10日より前に別途やってある。今回の10日はゲームそのものを作った期間で、下調べの分は入っていない。
調べたのはこういうことだ。震災の前に書かれた紹介文をそのまま使うと、もう営業していない宿を案内することになる。営業時間、再開の見込み、何が変わって何が残っているか。出どころの分かる資料83件を当たって、12か所すべてに出典を付けた。リンクが切れていないかは、今も自動の検査で毎回確かめている。
この調べ物はAIに任せた。ただし「調べて」で終わらせず、どこで読んだのかを必ず一緒に出させた。
それでも、間違いは混ざった。1回目に出てきた原稿は、12か所のうち10か所が不合格だった。名前が違う、現況が古い、前の行と後ろの行で言っていることが違う。そういう見過ごせない誤りが8件あった。裏付けの取れない土産物2件は、こちらで消した。合格になるまで6回突き返している。
出典を出させれば正しくなる、ということはない。出典を出させたうえで、その出典をこちらで開いて確かめる。この2段目を省くと、もっともらしいだけの文章がそのまま残る。
まず3Dで作ってみて、やめた
はじめに手を付けたのは3Dのほうだった。四角い積み木を組んだような見た目で、地形に高さがあり、光が当たって足元に影が落ちる。夜の能登を、主人公が松明を持って歩く。
ここまで動かしたところで、やめた。このまま12か所ぶんを作り切るには、手間も日数もかかりすぎると見たからだ。地形の高さ、光の向き、影の落ち方。3Dは決めることが平面より一段多くて、その一つひとつに人の手が要る。この作ってやめた分も、10日の中に入っている。
そこで、スーパーファミコンの頃と同じ平面の絵に切り替えた。上から見下ろす町を歩き、順番を選んで戦う。作る量も、ドラゴンクエスト3くらいのところに置いた。決めることが少ないぶん速く、12か所を巡る旅にはこれで足りる。
作れるかどうかではなく、どこでやめるかを先に決める。10日で1本できたのは、作るものを平面に決めたからでもある。
9つの担当に分けて、同時に作らせた
1本のゲームを1人で順番に作ると、どうしても間に合わない。そこで、作るものの種類で9つに割って、同時に進めてもらった。並べるとこうなる。
- 敵を作り、強さとレベルの上がり方のつり合いを見る担当
- 道具と装備を作る担当
- 呪文や技と、選べる職業を作る担当
- 町と、そのあいだの野を作る担当
- 洞の道のりを作る担当(前半)
- 同じく、洞の道のりの後半
- 画面の土台を作る担当(地図、持ち物、町の人への話しかけ)
- 戦いの画面と、図鑑の画面を作る担当
- 音楽と効果音を作る担当
絵も音も、描いたり録ったりしていない。点の色をひとつずつ並べて絵にし、音の波を組み立てて鳴らす。どちらも書いて作らせたので、絵を描く専任はいない。敵の絵も、人の絵も、町の絵も、それぞれの担当が自分の受け持ちのぶんとして作った。
割り方は思いつきではない。互いの出来上がりを待たずに済む単位で切った。敵の担当は、道具ができるのを待たなくていい。量が1人分に収まらないところは、洞の道のりを前半と後半に分けるように、同じ種類の中でもう一段割った。
分けなかったものもある。設計と、全体のつり合いと、出てきたものをつなぎ合わせるところは、配らずに手元に残した。ここまで配ると、9つが噛み合わなくなる。まとめ役は1人でいい。
分けた結果、10日でこれだけのものができた。
- 巡る場所12か所と、そこにつながる道のり14本
- 敵66種類
- 能登の名産品からできた道具と装備160点
技と職業、町の人のせりふ、音楽と効果音まで、同じ10日のうちに揃った。
「できた」を、人の感覚で決めなかった
いちばん効いたのはここだと思う。
AIに長い仕事を任せると、途中で「だいたいできました」と言ってくる。人が遊んで確かめるしかない、という作り方にすると、確かめる側が追いつかなくなって、そこで止まる。
そこで、始める前に合格の線を決めた。遊び通すのに何時間かかるか。どの敵とも、ちょうどいい強さで戦えるか。12か所すべてに、ちゃんとたどり着けるか。行き止まりになっている場所はないか。線を決めておくと、外れたときにその場で分かる。だからAIは「できました」で止まらず、直しに戻る。
これは、ゲームに限った話ではない。合格の線を先に決めておくと、AIは途中で止まりにくくなる。
参考にした形と、真似しなかったもの
遊びの形は、ドラゴンクエストを参考にした。順番を選んで戦う、仲間と旅をする、町で装備を整える。この形が、いちばん多くの人に説明なしで通じるからだ。
そのうえで、始める前に決めたことがある。名前も、絵も、音も、文章も、一つも借りない。
呪文は「トモシ」「アラナミ」「キヨメ」。灯をともす、波が荒れる、塩で清める。この土地の言葉から作った。敵は「砂の影」「潮の泡」「牡蠣殻武者」。土地の民話に出てくる怪異と、この土地のもの(砂、潮、牡蠣の殻、漆)から起こした怪異、それにこちらで作った「常闇」でできている。絵は1枚も外から持ってきていない。音楽も、譜面から書いた。
題は「能登復興クエスト」とした。まだ仮の名前だ。「復興」と付けたのは、この土地を応援したいという意味であって、ゲームの中で復興を成し遂げる話にはしていない。なぜそうしなかったのかは、次に書く。
借りたのは遊びの形だけで、中身は全部この土地から作り直した、ということになる。これは私たちが自分で引いた線であって、法律の判断ではない。迷うところがあれば、専門家に相談したほうが早い。
震災は、遊びの仕組みから外した
実在の被災地を舞台にする以上、決めておかなければならないことがあった。
地震・津波・火災・断水・避難を、敵にも技にも仕掛けにも使わない。敵を倒すことを「復興」として描かない。神事や祭り、来訪神を敵にしない。最後の戦いの場所を、実在の土地に置かない。
被災のことに触れないわけではない。ただしそれは、戦いから切り離した図鑑と解説の欄で、出典を付けて扱う。ここを曖昧にすると、現実の被害と、そこからの歩みを、遊びの点数に変えてしまう。
03
実際の変化
ざっくり書くと、こうなった。
変わったこと
仮定: 4時間あまりは、戦った回数と読む文字の量から出した見積もりで、通しで遊んで計った数字ではない。
04
かかっている費用
道具代は、月9〜10万円ほどかかっている。内訳はこうだ。
- AIの利用料が約6万円。いちばん重い契約(月200ドル、3万円ほど)を2つ結んでいる
- AIの担当たちを動かすサーバーと、そこでの連絡のやり取りに3〜4万円かかっている
ただし、この9〜10万円は、このゲーム1本のための費用ではない。ふだんから、まとまった量の仕事をこの環境に押し込んでいて、その月額がこれだ。この10日は、そのほとんどをこのゲームに回した、ということになる。
ゲーム1本を10日で作る、というのは重い使い方の極端な例で、費用もそれに合わせて重くなる。商品の説明文を書く、チラシの文案を出す、届いた書類を整理する。そういう軽い使い方なら、いちばん安い契約(月20ドル、3千円ほど)から始められる。「AIにちゃんとやらせるには月10万円かかるのか」と読まれると困るので、ここは分けて書いておく。
別に要るのが人の手間だ。今回は10日。合格の線を決め、出てきたものを突き返し、直ったかどうかを見るところは、この10日のあいだ人がやっている(1日に何時間かは計っていない)。しかも、12か所の場所選びと調べ物は、この10日の外側にある。
05
つまずいたところと直し方
うまくいかなかったことのほうが多かった。
最初のボスが、勝てない強さだった。同じ技を、序盤の敵も終盤の敵も使い回していた。技の強さを固定にしていたので、いちばん最初のボスが、終盤相当の全体攻撃を撃ってきた。初戦で必ず全滅する状態で、しばらく気付かなかった。
逆に、中盤から敵の攻撃がまったく通らなくなった。敵の強さと味方の強さを、別々の表で決めていたのが原因だ。味方は装備でも強くなるので、伸び方が敵より速くなる。途中から、どの戦いも負けようがなくなっていた。
属性を作ったのに、選ぶ意味がなかった。敵66体のうち54体が「灯」に弱く、灯が効きにくい敵は1体もいなかった。つまり、ずっと灯を撃っていればよかった。しかも効いたかどうかが画面に出ないので、遊ぶ人には属性があること自体が分からない。作ったつもりで、遊びには一度も効いていなかった。
途中まで遊んでいた人に、あとから足した技が永久に届かなかった。技を覚えるのはレベルが上がったときだけで、すでに上限まで育てた仲間には、二度とその機会が来ない。これは自分では見つけられず、別のAIに見てもらって発覚した。しかも1度目の直しでは足りず、2度目の指摘でようやく直った。
最後の1件がいちばん大きい学びだった。あとから中身を足したら、すでに使い始めている人の側をどう揃えるかまで、頼むときに言う。これはAIが悪いのではなく、こちらが頼み方に入れていなかった。
06
能登の仕事でどう使えるか
ゲームの話をしてきたが、能登の仕事にそのまま持っていけるものが3つある。
1. 「人のマネになっていないか」は、自分で4つ確かめられる
チラシ、ロゴ、商品の説明文、店の紹介文。AIに作らせたものを外に出す前に、名前・絵・音・文章の4つについて「これは自分たちのところから出てきたものか」を確かめる。どこかで見た名前をそのまま使っていないか。素材を外から持ってきていないか。この4つを通しておくと、「気付かないうちに借りていた」に気付きやすくなる。ここに書いたのは自分たちの手順であって、法律の判断ではない。迷うところを絞ってから相談できる形にしておくと、専門家との話も早くなる。
2. 頼む前に、合格の条件を1行で渡す
「いい感じにして」では止まる。「何ができていれば合格か」を先に書いておくと、AIは自分で外れに気付いて直しに戻る。お品書きの文章なら「必ず産地と食べ方を入れる」、お知らせなら「日付と場所と連絡先を必ず入れる」。それだけで十分に線になる。
3. 最後は人が見る。できればもう一つのAIにも見せる
この10日でいちばん大きな見落としは、別のAIに見せて初めて出てきた。作った本人(AIも含めて)は、自分の抜けを見つけにくい。書いた側とは別の目を、必ず一つ通す。
震災のあと、能登に来てもらう手立ては1つでも多いほうがいい。パンフレットや地図と同じ棚に置けるものが、10日で1つできた。個人が作った非公式の試作だが、noto-quest.pages.dev を開けば、誰でも12か所を巡れる。同じ作り方は宿の紹介にも、道の駅の案内にも、祭りの伝え方にも使える。
