空き家を買って、宿として直したい。決める前に、家族にも職人にも見てもらいたい。

けれど、図面を15ページ広げたところで、見ている人の頭に建物の姿は浮かばない。

そこでAIに図面を読ませて、立体にして動かして見せて、と頼んでみた。ぐるりと回して見せられる3Dが、すぐに出てきた。

もくじ(全 6 節・約 11 分)

01

困りごと

能登の建物について相談を受けるとき、手元にあるのは言葉ではない。古い紙の図面だ。

空き家、使っていない蔵、直して宿にしたい建物。どれも図面はどこかにある。困るのは、その図面のままでは人に伝わらないことだ。家族に見せても、引き受け手に見せても、お金を出す側に見せても、平らな線の集まりから建物の姿は浮かばない。「直したらどうなるか」を見せたいのに、見せる形がない。

3Dにして回して見せられれば早いが、そこから先は引ける人に頼む道だった。

今回試したのは、その図面をそのままAIに読ませて、3Dを起こせるかだ。

使ったのは、人の図面ではなく公開されている図面

使ったのは、国土交通省が公開している図面だ。お客さんから預かった図面を、試しに使うわけにはいかない。A4横15ページ、架空の庁舎の図面で、実在の建物ではない。

元の図面。南から見た立面図で、4段に並んだ窓、上端の笠木と手すり、右上に塔屋とタラップが描かれている(「営繕BIMモデル」(国土交通省)を加工して作成)

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02

やったこと

渡したのは図面。頼んだのは「立体にして、動かしながら見せて」

やったのは、この2つだけだ。15ページの図面をそのままAIに読ませて、「これを立体にして、動かしながら見られるようにして」と頼んだ。

返ってきたのが、ぐるりと回して見られる3Dだ。

決め事は1つだけ置いた。図面に無いものは足さない。「それらしく見えるから付けておく」をやると、人に見せる図として使えなくなるからだ。

起こした3D。陰影だけの素の状態で、屋上の手すり・塔屋・タラップ・窓の庇・壁の目地が見える(「営繕BIMモデル」(国土交通省)を加工して作成)
3Dが3段で組み上がるところ。壁に窓の穴が空いた状態 → 窓が入る → 手すり・タラップ・窓の庇・通用口の庇・目地が入る(「営繕BIMモデル」(国土交通省)を加工して作成)

出来上がった3Dを、元の図面に重ねて答え合わせ

出来上がった絵を眺めていても、合っているかどうかは分からない。窓が1枚ずれていても、図面に無い樋が1本増えていても、絵としては自然に見えてしまうからだ。

そこで、3Dを図面と同じ向き・同じ縮尺で描き出して、元の図面の上に重ねた。合っていれば、窓の枠が二重にならない。

元の図面から、同じ縮尺で重ねた3Dへ入れ替わるところ。途中で図面の窓の枠と3Dの窓が重なって見える(「営繕BIMモデル」(国土交通省)を加工して作成)

人に見せて「これで直します」と話す図なら、合っていることを先に確かめておく。ここは目で見て済ませないほうがいいところだ。

ただし、重ねる物差しそのものが合っているかを別に確かめる必要があり、ここを外していた。

最後に足したのは、光と材質だけ

形はそのままに、空の明るさと壁の材質だけを足したのがこちらだ。

南面に寄ったところ。窓の上の庇とガラスの映り込みが見える(「営繕BIMモデル」(国土交通省)を加工して作成)

ここで手を止めている。これはきれいな昼の光で描いた絵であって、写真ではない。人や車を足して写真らしくすることもできるが、そのためには絵を作り直す道具を通すことになり、通した瞬間に「図面どおり」が保証できなくなる。

図面どおりであることと、写真に見えることは、ある地点から先は両立しない。今回は図面どおりを取った、つもりだった。

同じ図面を別のAIに渡し、頼み方を2通り試した

しばらく経ってから、同じ15ページの図面を別のAIに渡して、同じ建物を起こさせてみた。

1回目は、上と同じく「図面に無いものは足さないで」と頼んだ。出てきたのは、壁と窓だけの簡素な建物だ。

2回目は頼み方を変えた。「図面に描いてあるものは全部立体にして。図面に無いものを足すなら、何を・なぜ足したか全部書き出して」。同じ図面から、手すり・壁の目地・タラップ・塔屋のドアが出てきた。建物が載る地面まで作ってある。

この記事の前半で起こした3D。壁・窓・屋上の手すり・塔屋・タラップまでの状態(「営繕BIMモデル」(国土交通省)を加工して作成)
頼み方を変えて起こした3D。窓の庇・塔屋のドア・通用口・換気口・壁の目地まで入っている(「営繕BIMモデル」(国土交通省)を加工して作成)

寸法の合い方は変わっていない。同じ物差しで測って、同じ範囲に収まっただけだ。あとで分かることだが、その物差し自体が違っていた。変わったのは、どこまで作り込むかと、こちらの頼み方だけだ。

持ち帰れるところが2つある。1つは、足したものを申告させること。いくつか足したものはあるが、全部「これは図面に無い」と申告があった。重ねて見ても、申告に無いものは生えていない。置いたものの位置も「図面のどのページの、どの表記から読んだか」が残っている。

図面にあるのに置かなかったものにも申告があった。そのうち1つが樋だ。先に「勝手に足すな」と伝えてあったもので、記号だけがあって立面図には描かれていないから置かなかった、と理由まで書いてきた。

もう1つは、何に使う3Dなのかで頼み方を決めること。「足すな」と頼めば簡素になり、「全部作って、足したぶんは申告して」と頼めば作り込まれる。どちらが良いかではなく、用途で選ぶ。人に見せて話を始めるための3Dなら、作り込みより「余計なものが無い」ほうが効く。そしてこの2回目が、こちらが1週間誰も疑っていなかった縮尺の誤りを見つけた。次の節は、その訂正になる。

03

実際の変化

変わったこと

15ページの図面から、ぐるりと見て回れる3Dが1つ出来上がった。
窓の位置は、思っていたほど合っていなかった。図面の線を実寸に直す物差しの縮尺が少し違っていて、本当のずれは、重ねる前に「ここまでなら許す」と決めた60mmを超えていた
寸法を目で測っていない。図面に入っている数値から出した。ただし、その物差しの確かめ方に穴があった
3Dに入れた細部は、笠木・手すり・窓の庇・目地・タラップまですべて図面に描いてあるもの。図面に無いものは1つも足していない
これまでは、ここで外に頼むしかなかった。今回やったのは、図面を渡すことと、出てきた3Dを図面に重ねて測ることだけだ

2026年9月4日訂正。公開時のこの節には「図面との差は最大16mm」と書いていた。誤っていたのは測る側の物差しで、同じ物差しで作った3Dの窓の位置も、そのぶんずれている。

04

かかっている費用

道具は無料だ。3Dを作る道具も、図面を読む部品も、素材の図面も、買い足したものはない。

お金として出ていくのはAIの利用料だ。こちらで使っているのはいちばん重い契約(月200ドル、3万円ほど)を複数で、今回の作業はその月額のうち、だいたい半日ぶんにあたる。工程ごとに計ってはいないので、ここは手元の見当だ。

ただし、これを「図面を3Dにするには月3万円かかる」と読まないでほしい。契約が重いのは、ふだんまとまった量の仕事を押し込んでいるからだ。

書類を整理する、文案を出すといった軽い使い方なら、いちばん安い契約(月20ドル、3千円ほど)から始められる。

別に要るのが人の手間だ。図面を手元に落としてから3Dと絵が出るまで、およそ1日で収まった。図面を渡して終わりではなく、出てきた3Dを図面に重ねて測るところまで人が付いている。自分でやるなら、この1日ぶんが要る。

05

つまずいたところと直し方

いちばん怖かったのは、効いていないのに通ったように見えることだった。同じ型の失敗を3回している。いちばん大きいものは、記事を出したあとに見つかった。

測る物差しが、測られる3Dと同じ間違いを抱えていた。図面の線を実寸に直すときの見込みが違っていて、3Dを作るときも、図面に重ねて測るときも、同じ物差しを通していた。ずれが打ち消し合って、きれいな数字が出た。確かめたつもりの2か所も同じ物差しの上だったので、確かめになっていない。

抜け方は1つだ。良すぎる結果は、安心する理由ではなく、確かめる理由だ。「32mの建物で、ずれは16mm」と出た時点で、こちらは物差しを疑うのをやめていた。測り方を変えてもう一度測るまで、合っているかどうかは分からない。

窓の数を数える検査を、見栄えのいい絵の上でやってしまった。太陽の向きと明るさを調整したとたん、ガラスの色が変わり、検査が「窓は1枚しかない」と言い出した。検査用の絵は陰影なしのベタ塗りで別に描く、と分けて解決した。見せるための絵と、確かめるための絵は別物だ。

太陽の光が、そもそも効いていなかった。明るさが足りず、ほぼ空の明るさだけで描いていたので、太陽の向きを5通りに振っても絵が変わらない。「向きの指定が間違っているのか」と何度も直した。明るさ0のもの、20のもの、空を消したものの3枚を並べて、やっと分かった。1つずつ動かして見比べないと、効いていないことに気づけない。

ほかに、地味に止まったところも書いておく。

  • 空と太陽の両方から光を当てて、絵が真っ白になった。太陽1本だけにした
  • 壁のタイルが縦縞になった。壁の向きによって、模様の並ぶ向きが変わるためだ
  • 同じ一覧を使い回してしまい、1階から4階まで全部が同じ中身になった
  • 配布されているファイルが、名前の文字化けで標準のやり方では開けなかった
  • 道具の版によって設定の名前が違う件で、同じ止まり方を3回繰り返した

前回の記事の結論と同じところに戻ってくる。自動の検査を通ることと、正しいことは別だ。出てきたものは必ず目で見て、確かめるための絵を別に用意する。

06

能登の仕事でどう使えるか

試したのは、架空の庁舎の図面1件だけだ。能登の建物で同じことができるかは、寸法が読み取れる図面が残っているかによる。思い浮かべているのは、こんな場面だ。

  • 空き家・蔵を引き継ぐ人。いまある建物の姿を3Dにして、家族や引き受け手と同じものを見ながら話す
  • 建物を直して宿や店にしたい人。工務店や、お金を出す側に見せる1つの形を、相談の前に手元に用意する
  • 図面が古い紙しか残っていない建物。その紙を読める形にして、3Dとして残しておく

どれも、話を始めるための材料だ。

3Dをぐるりと1周したところ。まだ窓を入れていない面は、壁だけの状態で出ている(「営繕BIMモデル」(国土交通省)を加工して作成)

そのうえで、大事なところを前回と同じように書いておく。ここで作った3Dは、工事のために作る図面ではない。実際に建てる・直すときは、建築士と工務店に渡してほしい。この3Dが代わりになることはない。建物の規模や造りによって、建築士でなければ作れない図面が法律で決まっている。

できないことも書いておく。この3Dは、柱が足りるかどうかも、地震に耐えるかどうかも見ていない。図面と合っているかどうかも、こちらが重ねて測って確かめたものだ。今回3Dにしたのは建物の外側だけで、中は作っていない。

始めるなら、手元の図面を1枚選ぶところからだ。どの面から見た図なのか、寸法がどこに書いてあるか。それが分かれば、話は前に進む。

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実践ノート ・ 2026.08.31 ・ 読了 7 分

工務店に相談する前の間取り図を、2文の説明から起こす

家を古民家風に直したい。決める前に、工務店にも家族にも見てもらいたい。こうしたい形は頭の中にあるのに、図を引く道具は覚えるところから始まるので、引いた経験がなければ手が出ない。 そこで、それを2文で書いて、AIに「この間取りを図にして」と頼んだ。寸法の入った1枚が出てきた。 ただし、これは工事のために作る図ではない。相談の叩き台だ。

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